【新・関西笑談】火を噴くアーティスト(4)現代美術作家 ヤノベケンジさん(産経新聞)

 ■バーコード頭にアトムスーツ 父の腹話術人形が廃虚に降り立った。

 −−集大成ともいえる展覧会「メガロマニア」を終え、「アトムスーツを着ない」と宣言したのはなぜですか

 ヤノベ 自分のなかでリセットできたから。自分のすべてがなくなったときに何が見えるのか。そこで公に宣言したのがアトムスーツを着ないことだった。もうひとつは、戦争の世紀となってアトムスーツを着る必要がない。メッセージを伝えるアートのツールとして必要ではないと感じたからです。

 −−それからヤノベさんはどういった方向へ向かわれるのですか

 ヤノベ その前に父(正信氏)の話をしないといけません。サラリーマン生活が長く、厳格な父だった。しつけも厳しく、僕が芸術の道に進むことに猛反対した。そんな父に早く認めてもらうために作品を作り続けたといっていい。父の抑圧は、アーティストとして独り立ちするための動機になっていました。

 −−作品が評価され、お父さんのヤノベさんに対する見方は変わりましたか

 ヤノベ 定年を機に変わりました。というか、ちょっと、おかしくなった。僕の作品が多くのメディアに紹介されるようになって、実家に戻ったある日、居間に子供が倒れていた。びっくりして近くまで行ってよく見るとカントリー調の服を着た子供の人形だった。実は腹話術人形だった。すると父が出てきて、退職して暇だから腹話術を始めたというんです。

 −−まじめなお父さんがですか。腹話術は上手だったんですか

 ヤノベ ものすごい下手。術師と人形の声を変えずに、ずっとダミ声でやっていた。何度いってもダミ声が直らない。家族全員から反対されて、父は人形を売りに行くといってへそを曲げてしまった。

 −−かわいそうですね

 ヤノベ でも、それから2週間後に息子を連れて実家に行くと、人形がなくなっていたから売られたのかと思った。代わりに青いトランクがあった。父が「新しい人形があるから見てくれへんか」という。そして父が「トらやん。早く出てきいや」と話しかけ、トランクから取り出したのは、前回と同じ人形。でも明らかに容姿が違う。頭の毛ははがされバーコード頭のかつらをかぶり、ちょびひげを付けた奇妙な人形だった。息子は泣き始めて大混乱となった。でも不思議と父の声と合っていた。

 −−それが、どう作品化されたのですか

 ヤノベ 実は、メガロマニアの開催初日のイベントで、父の強い希望で腹話術をやることに。本当は嫌だったけど、親孝行だと思って承知した。それまで会場によく来ていた父が突然来なくなった。同時に、作品として展示するはずだった3歳児用のミニ・アトムスーツも消えていた。

 −−お父さんの仕業ですか

 ヤノベ 急いで実家に行くと、ミニ・アトムスーツを着たトらやんがあった。結局、そのスーツを着たトらやんを使って父は腹話術をやったんですが、終わってからもずっと気になって仕方がなかった。自分自身が次のイマジネーションを待っていたこともあって、(僕の心の)廃虚に降り立ったのがトらやんだった。平成16年に東京・六本木ヒルズの森美術館に出展した「森の映画館」がトらやんの初登場となった。映画館は子供用核シェルターの機能を持ち、自分がいなくなっても生き延びて、次世代につなげてほしいというメッセージを込めた。その後、トらやんは作品のメーンキャラクターとなり、メッセージを伝える仲介者となった。平成19年には、トらやんを主人公にした絵本も制作しました。(聞き手 今西和貴)

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